「書店活性化のための課題(案)について」に思う

経済産業省(中小企業庁)は、今年3月に「書店振興プロジェクトチーム」を立ち上げました。中小企業庁が特定の業界のために振興策を検討するというのも稀なケースだと思いますが、書店の減少がそれだけ深刻な社会問題であり、国にとっても自治体住民にとっても放置できない課題であることを示しているのでしょう。

半分近くの市町村では書店がゼロまたは1軒しかない

書店振興プロジェクトチームが公表した、「書店活性化のための課題(案)について」には、全国1,747自治体の書店数の調査が掲載されています。全国の都道府県で無書店率が高いのは、1位が沖縄県56.1%、2位が長野県54.5%、3位が奈良県51.3%となっています。1書店以下率(書店数ゼロか1か)になると、1位が高知県76.5%、2位が鳥取県73.7%、3位が長野県71.4%です。

書店がない市町村は全国で27.7%、書店が1軒またはゼロの市町村は47.4%にも及んでいます。

プロジェクトチームでまとめた課題

経済産業省が開催した車座などで指摘された課題をまとめた「書店活性化のための課題の整理」を見てみると、重要なことが多く指摘されています。この中から筆者の関心の高いところを一部抜粋して挙げてみます。

① 書店における注文書籍の到着の遅れ

ネット書店に比べて注文した本が書店に届くまでに要する時間が長く、これが書店の競争力を弱めている。

② 公共図書館の複本購入による売り上げへの影響

公共図書館は購入する際には同時に2冊以上購入する場合が多い。公共図書館の評価指標に来館者数や貸出冊数の多寡があるため、ベストセラーになると過度な購入が行われて書店店頭での購入機会を奪ってしまう。

③ 地域書店による公共図書館への納入

官公庁による入札を経て値引きが行われ、資金力に勝る大規模事業者が一手に引き受けてしまう現状があり、地元小規模書店の販売機会が失われている。

④ 図書館の納入における装備費用の負担

官公庁による入札を経て、フィルムやバーコード付与といった装備負担も落札事業者に求められるケースや別途の費用計上を認められないケースもあるため中小の書店にとっては受託することが困難になっている。

⑤ 新規出店の難しさ

書店の新規出店時には書籍を揃えるために必要な保証金は1000万円以上となり、大きなハードルとなっている。

⑥ ネット書店との競合

リアル書店は、再販制度により小売価格が決定されている。一方で、ネット書店では過度なポイント還元や配送料無料などで実質的な値引きが行われている。競争条件が平等ではない。

⑦ 万引き問題

本は低利益率の商品であるため、1冊の万引きが与える経営への影響が大きい。

これらは挙げられた課題のうちの一部ですが、いずれも書店経営の上で障害となりうる問題であったり、長年続いてきた流通のしくみ上の問題であったり、改善すべき課題が的確に指摘されているように思います。

ネット書店との競争

上記の①と④はネット書店との競争において不利とされる問題です。「本を注文してから手元に届くまでが遅い」、「ネット書店では配送料無料やポイント還元がある」。

例えば顧客が本を注文すると出版社から直接顧客に届けるという仕組みはできないものでしょうか。「ベイス」や「Shopify」は、個人やスモールチームが簡単にネットショップを作成できるサービスですが、顧客が本を注文するとベイスと出版社に連絡が届き、顧客はベイスに代金を支払います。本は入金を確認してから出版社から顧客に発送します。代金は定期的にまとめてベイスから出版社に入金されます。取次さんにとっては歓迎できないことかもしれませんが、新しい流通の仕組みを取り入れる必要を感じます。

また、ネット書店では品ぞろえが豊富という利点があります。欲しい本をほとんど悉皆的に探すことができます。例えば販売中の書籍情報データベースを構築して、全国書店が統一して自社サイトから利用するようなことはできないものでしょうか。

新規出店の難しさ

取次との取引を前提としているため、⑤の新規出店の難しさは確かにあります。これからの書店経営には、小規模でも特色のある品ぞろえや個性ある経営手法が求められ、SNSなどを活用した情報網も侮れないものがあります。もっと出店の敷居を低くして、参入・退出をしやすくすることが大切です。

いかがでしょうか、「無くなってからわかるリアル書店のない町の寂しさ」。このようなことにならないように、どなたにもぜひ考えていただきたいと思います。

中小企業庁では、令和6年10月4日(金)から令和6年11月4日(月)まで、「書店活性化のための課題(案)について」のパブリックコメントを求めています。

https://public-comment.e-gov.go.jp/pcm/detail?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&Mode=0&id=595224033

(参考サイト)

● 【書店振興プロジェクトチーム】経済産業省は「関係者から指摘された書店活性化のための課題(案)」を公表しました。

https://public-comment.e-gov.go.jp/pcm/detail?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&Mode=0&id=595224033

● 関係者から指摘された書店活性化のための課題(案)(PDF形式:767KB)

https://www.meti.go.jp/press/2024/10/20241004002/20241004002-1.pdf

● 書店経営者向け支援施策活用ガイド(PDF形式:3,085KB)

https://www.meti.go.jp/press/2024/10/20241004002/20241004002-2.pdf