書店で本が売れない。
書店で本が売れない。
統計データがメディアで発表されるたびに、年に10%とかそれに近い数量の出版物や用紙の出荷量が減少していることが論評されています。それと並行して、本が売れない、苦戦するリアル書店が町から消えていくことが問題とされています。
弊社でも、通常の販売ルート(取次⇒書店)よりも別の販売チャンネルのほうが売上が多いという事態がよくあるようになりました。
・活字離れとよくいわれるが本当だろうか。
・若者が本を読まないというのは本当だろうか。
・デジタル化が本離れに拍車をかけているという話は本当だろうか。
・アマゾンなどのネット書店でも苦戦しているということを聞く。
弊社(ハーベスト出版)では昨年、一人でやっている古書店の店主が書いた日記(「松江日乗~古本屋差し入れ日記」)を、紙の書籍として出版したところ、想定を大きく上回る売れ行きとなって嬉しい悲鳴という事態となりました。大きく売れたといっても千数百部なので弊社としては中ぐらいでしょうか。もともと初版がはければ上々と考えていたので、増刷するということになったのが信じられないということです。
奇妙だったのはその売れ方です。いつもの取次を経由して配本した書店では予想していた通りあまり売れないのに、著者であるその古書店での手売り、聞いたことない全国の小さな書店や古書店、個人からの注文が数多く寄せられたのです。
購買する方はどこでどう知ったのか。長年この業界に携わっているものとしては文字通り想定の外でした。担当した編集者によれば、このような現象は全国的に広がっていて、SNSを通じた情報発信や、小書店・古書店の横のネットワーク、またその主人の生き方・考え方に対する共感。これらのことがその本を購買する動機になっているというのです。
広島県のある古書店の主人の書いた本が1万部を超えたとか、沖縄県の離島にある小出版社の出した本が1万部売れたとかということを聞きます。地方の小出版社にとっては、発行部数が1万部を超えるということはほとんどあり得ない事態なのです。おそらく購買した読者は、リアル書店で実際に本を手に取って立ち読みしたわけでもなく、その古書店や小出版社のあり方(生き方)をSNSや口コミで知り、書籍の装丁、もくじ、値段をネット等で確認しただけで購入した方がほとんどなのです。持つことに喜びを覚えるということもあるかもしれません。
大規模なリアル書店がいくら頑張っても、品ぞろえではネット書店に勝つことはできません。実物の本を手に取って立ち読みするといっても、これだけ世にあふれる出版物のなかから顧客が求めるものをリアル店舗にすべて並べておくことは不可能です。
だとすれば、小書店や古書店が自分の生き方と考え方に沿った品ぞろえをし、もしかしたらそれは書籍だけではないかもしれないけれど、広くうすく全国の同感する読者に情報が届くこと、そんな状況がいまの「本」をめぐる環境にはある。
この稿を書いている本日(2023.9.4)の地方紙によると、出雲市の大規模店舗のテナントとして入居していた地域の大手書店(今井書店)が撤退して、紀伊国屋書店が入居することになったそうです。
「本」にかかわるものとしては、とりあえず書店が無くならなかったことはうれしいけれど、新しい大規模なリアル書店が、これまでとは違う解決策を示してくれるかどうかはわかりません。